• マイラビ通信

すぐに忘れる・間違える子どもには、「見てわかる」工夫を

「言われたとおりにできない」「やることを忘れる・間違える」「進んでやろうとしない」。
発達に遅れや偏りがあるお子さまによく見られることです。
こうしたお子さまが安心して日常生活を送れるようにするための工夫の一つに「構造化」があります。
最近身近でよく使われている言葉ですが、どのようなことをいうのでしょうか。
工夫のヒントやふだんの暮らしに生かすアイディアなどを見てみましょう。

「構造化」=「見てすぐわかる」こと!

「構造化」は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを支援するためにアメリカで開発されたプログラム(*1)で提唱されている方法です。
何か活動する前にその活動を行いやすくするために環境を整えることで、主に「見える化」によって視覚的にわかりやすい環境をつくることをいいます。
発達障害(神経発達症/神経発達症群)(*2)やグレーゾーンの子どもは、興味や行動、感覚、そして記憶の仕方など日常生活に関わる能力が一般的な子どもの振り幅と少し異なっています。
その一例として挙げられるのが、目に見えないものを理解する力が弱いということです。
例えば、暗黙の了解になっているルールや慣習的に行われている手順など、目で見えるかたちで示されていない内容について理解したり実行したりするのが苦手という特性です。
しかしその一方で、目に見えるものについては理解力は高いという特性があります。
これらの特性を考慮して、場所や時間、行動について「見てすぐわかる」ように環境を整えることが「構造化」です。
この構造化の考え方は、発達障害やグレーゾーンの子どもだけでなく、それ以外の子どもや私たち大人にも大変有効な方法として、さまざまなところで活用されています。

(*1)「発達障害」は、医学的には「神経発達症」「神経発達症」と呼ばれます。
    また、「発達障がい」について検索される方の便宜を考慮し、 神経発達症のことを一部「発達障害」と表記させていただいております。
(*2)TEACCH(Treatment and Education of Autistic and related Communication-handicapped CHildren)

「構造化」することで、見通しをもって取り組める

構造化の具体的な方法として挙げられるのが、「いつ」「とこで」「何を」「どうする」を「見える化(視覚化)」することです。
「見える化」とは、文字や写真、イラスト、マーク、ピクトグラムなどではっきりと示すことです。
発達障害やグレーゾーンのお子さまは、先に何が起こるかわからないと、不安を覚え、イライラを募らせます。
そのため、「この時間は○○をする」「それが終わったら□□をする」と決めておき、文字やイラストにして掲示しておくと、安心して行動できるのです。
また、一つの物事に対して他の一つの物事だけが対応する「一対一の対応」 は得意ですが、それ以外のことは苦手です。
例えば、一つの場所をいろいろな用途で使っていると、何をする場所かわからなくなり、混乱してしまいます。
そこで、エリアを区切ったり場所を指定したりして「この場所は勉強するところ」とひと目で見てわかるように示しておくと、迷いなく学習に取り組めます。
このように、「時間」と「場所」と「活動内容(行動)」を具体的に可視化することで、子どもは「いつ・どこで・なにを・どうすればいいのか」がはっきり理解できます。
それを毎日繰り返すことで生活習慣が整い、見通しをもって自ら行動できる力が養われていくのです。

「見える化」ってどんなことをすればいい?

「見える化」は、「いつから」「いつまで」「どこで」「なにを」「どのように」など必要な情報を、文字、写真、イラスト、文字、マーク、ピクトグラム、色分けなどを使って掲示する方法です。
ルールや決まりごと、手順などを目に見えるかたちで掲示することで、子どもが日常生活の中でストレスを感じずに行動することができます。
「見える化」の例を見てみましょう。

「見える化」の例① 朝の順序を示す

朝起きて学校に行くまでの一連の動作を順を追って示します。
例えば、「顔を洗う」→「パジャマを脱ぐ」→「制服を着る」→「朝ごはんを食べる」→「歯を磨く」→「トイレに行く」→「髪の毛を整える」→「持ち物を確認する」→「ランドセルを背負う」→「帽子をかぶる」→「玄関に行く」
など一連の流れを、文字とイラストで示して壁に貼っておけば、目で確認しながら準備できます。

「見える化」の例② エリアを示す

部屋のエリアを「休む場所」「勉強する場所」「食事をする場所」「ゴミを捨てる場所」「スケジュールを確認する場所」など、活動内容ごとに表示したり、仕切りを設けたり、カーペットの色やラグの模様などで区別したりします。
その場所で行うことを明確にしておくと、それに応じた行動を確実に行えるようになります。

例えば、玄関に靴のマークや靴を置くエリアを示しておくと、「ここで靴を脱ぐ」ということが認識でき、靴をそろえる習慣にもつながります。

「見える化」の例③ オリジナル標識を作る

「見える化」のいちばんポイントは、わかりやすさと明確さです。
それには、マークやサイン、シンボル、ピクトグラムを活用したり、はっきりとした色味で示したりすると効果的です。
例えば、「トイレ」「ゴミの分別」「立ち入り禁止」のほか、「ものの置き場所」(ランドセルを置く場所、上着をかける場所、洗濯物を入れる場所など)がひと目でわかるようなマークを作って貼っておくとよいでしょう。

家族で意見を出し合いながら、「わが家のオリジナル標識」や「絵カード」を作るのも楽しいでしょう。

「構造化」で思いがけないメリットも

構造化することでわかりやすい環境が整い、子どもは安心して生活できるようになり、それ以外にもいくつかメリットがあります。
その一つが、苦手なことやつまずきやすいポイントが新たにわかること、そして、ほめる回数が増えることです。
例えば、「朝の順序」が苦手だったお子さまが、構造化された掲示をもとに一つひとつ手順を確認しながら行動するうちに、特に苦手そうな内容がわかるので、より気をつければならないポイントが明確になります。
また、一つの手順が終わるたびほめるようにすると、ほめる回数が増え、お子さまに自信がついていきます。
ただ、「見える化」で大切にしたいのは、一つひとつの行動を親子で話し合って決めるということです。
保護者の方から一方的な指示になるとお子さまは不満に思うでしょうし、逆に自由に決めさせると、誤った方向に進んでしまう場合もあります。
親子で考えたことを話し合いながら納得できるものができると、気持ちよく日々の行動に移すことができるでしょう。

次回から、「時間」「場所」「活動内容(行動)」の構造化の具体的な工夫を見ていきます。