• マイラビ通信

長い休み。発達障害の子どもはどう過ごせばいい?

夏休み後半になると「しんどいです…診察予約を…」と保護者の方々から電話がかかってきます。
冬休みや春休みは短いので「なんとか乗り切ったけど、学校が始まってから大変…」とおっしゃる保護者さんも少なくありません。
大変さを経験した保護者さんの「次に備えたい」お気持ちをお聞きし、状況を整理して、できることを考えてお話ししています。
診察室でお話しする一般的なことをここに書いてみます。

子どもが「しんどくなる」理由は?

まず「なぜしんどくなるのか」を考えましょう。
長期休みに苦労する子どもの多くは、予定変更に弱さを持っています。
状況の変化に気づき、その後どういう流れになるかを想像することが苦手なため、活動等の見通しを持ちにくく、それがゆえに活動の切り替えが得意ではありません。
「もっと遊びたい!」は必ずしもわがままではありません。
切り替えにくく、やりたい気持ち(意欲)の調整が難しいのです。
一方、毎日繰り返す活動や、子ども自身の得意なことや予想できる流れにおいては、とても上手に活動できたり切り替えたりすることができます。

学期中は(運動会や発表会などの練習期間を除くと)学校に行く平日と、週末をはさんだ1週間の流れが身についていたり、朝起きて学校へ行って帰宅して寝る1日の流れに概ね乗れていたりしますが、長期休みになると生活リズムや活動が日々変わりがちで、弱みが露呈してしまいます。
長期休みの前半、子どもは楽しく過ごしますが、中盤以降、子どものリズムがどんどん崩れ、宿題が進まず、保護者さんのがんばりが持たなくなると、親子共に気持ちに余裕がなくなります。
したがって、長期休み中も生活リズムを一定にして、子ども自身が1日の流れの見通しを持てるのが理想です。

「見通し」を持ちやすくなる工夫とポイントは?

とはいえ、長期休み中に親子で時間割通り動く…なんて、考えただけで無理!ですよね。
現実的にできそうなことを見つけるために、具体的に「何を固定するのか、何を見通しやすくするのか」を整理してみましょう。

① 1日の生活リズムをなるべく崩さない

昼夜逆転や大きなズレを作らないように、「起床・朝食・排便・遊び・昼食・宿題・遊び・夕食・入浴・睡眠」など大枠の時間割を作りましょう。
スマートスピーカーなどの音声タイマーを使うのが有効なことがあります。
子どもは生理的に、午前中の血圧や体温は低めなので、勉強の時間を朝イチに設定するのはオススメできません。

② 1週間の予定を決めて提示する

習い事やお出かけなど、カレンダーに1週間分の予定を書き込んで、子どもと一緒に毎晩確認したり、子ども自身でも確認したりできるようにしましょう。

③ 宿題の成果を可視化する

長期休みには、宿題のリスト表だけでなく、宿題ごとにできた文量を塗れる表を作成しましょう。
「今日、算数ドリルを◯ページやった」と算数ドリルの棒の◯メモリ分をぬり、できた分がどのくらいあり、残りがどのくらいあるかを、子ども自身で視覚的に捉えられるようにします。

下は「しゅくだいグラフ」の例です。ご参考ください。

 

④ 昼食をパターン化する

曜日ごとなど、昼食メニューを決めてしまうことで、曜日感覚やルーティンを守る意識を維持しやすくなります。

⑤ 学童保育や療育を利用する

「学童より家がいい、家にいたい」という子どもでは、保護者さんの働き方にもよりますが、親子ともが無理ない頻度で利用するのが理想です。
また、平日毎日学童に行ってくれているから…と、休日に無理して子どもの希望を叶えようとすると、月曜日には親子ともに疲れていたりします。
そうならないような休日の過ごし方を工夫しましょう。

➅ 体を動かすための係活動(お手伝い)をする

親のためのお手伝いではなく、学校の係や日直活動の延長として設定しましょう。
保護者さんのお考えにもよりますが、物やおこづかいを与えるごほうびはなし、とするほうが良い場合が多いです。

⑦ 便秘、入眠困難、強いイライラなどがあれば受診する

長期休み中の生活リズム変化で、心身に影響が出やすい子どもがいます。
主治医に相談してみましょう。
投薬について検討できる場合があります。

「おうち会議」を開きましょう

①〜⑥のようなポイントを「夏休みおうち時間割」に構成するために、長期休みの直前の休日などに、子どもと「おうち会議」を開き、相談しながら時間割やカレンダー、宿題可視化表を作成しましょう。
保護者さんが事前に多少準備しておく必要があるかもしれません。
親子どちらかががまんするのではなく、親子とも無理なく、協力しあって、長期休みを過ごしましょう。
長期休みの最大の目標は、宿題の完成ではなく、生活リズムを維持することです。そして、長期休み明けの学校生活をうまくスタートできるようにサポートしましょう。

児童発達支援センター小児科医師・武庫川女子大学教育学部教授

宇野里砂

センターや保健所での乳幼児期から18歳までの発達や、学童の神経発達症(発達障害)の診療を担当。園・小中学校・支援学校・教育委員会等において、教員・保育士・学校看護師を対象に、発達支援や医療的ケア児支援に関する講演等を行っている。